漢字がいいとは限らない

鰯の大群が岩船港から去って、店の忙しさも一段落
雨が降ると客も減って、店の前のベンチで一服

すぐ目の前を鳥が飛んで、草が風に揺れる
向かいのマリンサービスさんと歩道の境の法面には小さな花が咲いて
「花鳥風月」ささやかながら日本の美意識を肌で感じる

釣業界的にはイワシ、アジ、シロギス・・・と紛れを避けるために片仮名表記だが
こんな文章なら漢字のほうが趣がある

花が咲く 鳥が飛ぶ 風が吹く 月が照る

ではありきたり

花が綻ぶ 鳥が舞う 風がそよぐ 月が冴える

日本の美はこうでなくては・・・などと愚にもつかぬことを考えて
「ん?」
「そよぐ」の漢字表記はあるのか?

調べて、この歳になって初めて知った
「戦ぐ」だそうだ
「へーっ、似合わねえ」

ちなみに濁点がつかない「戦く」は、「おののく」
怯える意味

これは、漢字を知ったからといって「風が戦ぐ」とは表記しないほうがいい

近年よく見かける
「よろしくお願い致します」
学校や役所の公文書でも普通に使われるので、市民権を得ているのだが
私に感覚では「固過ぎ」

自分で作る文書は
「よろしくお願いいたします」
必ずひらがなにする
何でも漢字にすればいいとは思わない

新しい生活様式で、外出の際のマスク
意匠に凝る方も多く、日本の新しい美意識に定着するかもしれない

でも頑固じじいの私はなじめない

マイノリティーになることより
今さら自分の美学を失うかもしれないことに戦いています

 

あめつち に われ ひとり ゐて たつ ごとき
この さびしさ を きみ は ほほゑむ

(天地に われ一人ゐて 立つごとき この寂しさを 君は微笑む)
会津八一

by 転がる石