天使の誘惑
当店にとっては最繁忙期のお盆休み期間に、従兄弟の息子をちょっとバイトで使いました。
「ひいじいさんが間島で海の家をやっていたのを知ってるか?」
「わかりません」
「そりゃそうだ。生まれるずっと前のことだからな。」
「間島ってどこですか?」
「岩ケ崎、大月、野潟、その次が間島さ。」
「岩ケ崎?」
「三面川の向こうの…」
「そっちの方はわかりませんね」
今の20代はそんなもんか?
「今でこそ山を削って立派な舗装道路だけど、じいさんが海の家をやってた頃は、
滝の前を通って砂利道のくねくねの上り坂を行ったもんだ。45年も前のことだ。
左官のじいさんの代わりにばあさんが大将になって、親類の嫁連中を手伝いに
トラックの荷台に商品やら人間やらみんな乗せて、朝の6時頃から出掛けたもんさ。
うちは夏で店が忙しくて、子どもの俺がじゃまなもんだから、
朝早く起こされて、そのトラックの荷台に載せられるのさ。
親類ばかりだけど、みんな忙しいから、一日の仕事が終わってまたトラックで帰るまで、
一人で海で遊ぶしかないのさ。昼にはおにぎりぐらいもらったのかな。
儲かったかどうかはわからんが、当時そんなことをやってみたじいさんは偉かったな。」
世間知らずの若者に、昔の人の苦労話を聞かせて得意になっていたわけです。
一人で海で遊んでいたら、今でいうところのギャル二人組に話しかけられまして
「僕、一人なの?」
「どこから来たの?」
そんな会話くらいしか覚えていませんが、
お姉さんたちの胸の谷間は、強烈な印象で残っています。
もちろんそんな思い出話は、今の若者にはしていませんが。
BGMには黛ジュンの「天使の誘惑」が流れていました。
1968年のレコード大賞ですから、私が8歳の夏の思い出です。
by ガンダルフ