飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

今日はようやく春めいて、暖かさを感じられましたが
昨日までは風が冷たくて、つい万葉集に収められた山上憶良の長歌
「貧窮問答歌」の冒頭を口ずさんでいました

 

風雑(ま)じり 雨降る夜の雨雑じり 雪降る夜は術(すべ)もなく
寒くしあれば 堅塩(かたしお)取りつづしろひ 糟湯酒 うち啜(すす)ろひて・・・

 

(風交じりの雨が降る夜の雨交じりの雪が降る夜はどうしようもなく寒いので,
塩をなめながら糟湯酒(かすゆざけ)をすすり・・・)

 

この歌は、貧しい民と困窮している民との問答の体になっています
庶民の悲哀に満ちた、万葉集の中でも異質な作品ですが
この冒頭と最後の節は、私にとっての「声に出して読みたい日本語」の一つです

 

昭和62年4月、20代の後半に今の店をオープンしました
その年の11月に亡くなった家内と結婚しました

 

この店の開店は、当時の我が家にしてみれば一か八かの投資でした
とにかく売上げを上げなければ
「家族が犠牲にならなければ」が父の口癖でしたし

それから20数年、元旦以外はほぼ営業
釣りシーズンは一日16時間ぐらい働いていました

 

長男が赤ん坊の頃、見てくれる人もいなかったので
レジカウンターの中で、タオルを敷いた段ボール箱に長男を寝かせて
家内とレジを打っていました

 

ガラス越しにわずかに見える毎日同じ空を見上げながら
「貧窮問答歌」の最後の節を口ずさんでいました

 

かくばかり 術なきものか 世の中の道 世間を憂しとやさしと思へども

飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

 

(この世の中はつらく,身もやせるように耐えられないと思うけれど,

鳥ではないから,飛んで行ってしまうこともできない)

 

飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

 

今、ウクライナで、新疆ウイグルで、ミャンマーで、香港で、北朝鮮で
多くの庶民が同じような気持ちになっていることでしょう

 

世界中に争いの無い、春の陽射しをと願うばかりです

 

By転がる石