急けども

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BOSSは村上大祭の「お呼ばれ」でご機嫌だったようですね。

家業の繁忙期で、すぐ近くにいながらろくすっぽ見たことがありません。
時節がら梅雨時なので、村上の衆は天候に気を揉みながら祭りを待つのでしょう。
  
  ♪河内さま よく聞き分けて 二度と頼まぬ 今いちど
 
甚句に唄われる願いは晴天か、それとも切ない恋の成就なのか。
短い文句だけになおのこと、いかようにも思いが巡ります。

国の重要無形民俗文化財指定も目指している祭りだけに、
新潟日報のコラムにも「県下三大高市(たかまち)の一つ…」と紹介されていました。

高市(たかまち)とは、縁日の露店のこと。
規模の大きさで新潟の蒲原祭り、柏崎のえんま市と並び称されているのだそうです。

私らの親の世代は露天商を「やし」などと呼ぶこともありました。
もう死語に近いですが、この言葉の語源トリビア、なかなかに奥深いです。

「香具師」なる漢字をあてて「やし」と読みます。
露天商の中でも啖呵売(たんかばい)の人たちが、本来の香具師だそうです。
小沢昭一氏あたりの専門分野ですが、バナナの叩き売りやガマの油売りなどがこれです。

源平の武士が登場する以前、武士と言えば「北面の武士」や「滝口の武士」など王城護衛の官職でした。
官位にありつけない下級貴族の子弟は武芸を鍛えてこの官職を希望しましたが、
定員がありますので、その職に就けない者たちが生計を立てるために、
教養を生かして仏具(香具)などを説明して売る仕事を始めたそうです。
彼らを在野の武士であるところから「野士」(やし)と呼び、その仕事から「香具師」の字をあてて、
やがて説明して売る人、つまり啖呵売の人を「やし」と言うようになったのだとか。

そもそも、大きな寺社の門前に自然と高市は出来上がりました。
商売したい人が多く集まれば当然、場所取りなどの争いが起こります。
争いを抑えるために仕切り役が必要になりますが、教養もあり武芸もある「野士」が、
やがて高市の仕切り役=テキヤの親分に納まります。

王城護衛のエリートの夢破れた果ての境遇です。

今年も雨の村上祭り。
大勢集まった露天商の人たちもさぞかし気を揉んだことでしょう。

それでも昨日の本祭りはほとんど降らなかったし、今日も午後からは雨が上がりました。
少しは商売になったでしょうかね。

 ♪急けども 今この身では 時節待つより 他はない

甚句の文句に込められたのは、夢を追う野士の悲哀か、
はたまた実らぬ恋のもどかしさか。

いつかは法被を借りて甚句の輪に入りたいと願いながら、
今年も露店すら覗かずに終わってしまった私にもお似合いです。

by ガンダルフ