パトリック・モラーツ(Patrick Moraz)の最初のソロ・アルバムである。
タイトルは「ストーリー・オブ・アイ(The Story of I)」(1976年)
1969年にデビューしたYES(イエス)は、4枚目の「fragile(こわれもの)」、
「Close to the Edge(危機)」「Tales from Topographic Oceans(海洋地形学の物語)」と
順調にアルバムを発表し、その人気を確実なものにしていた。
だが人気絶頂にあった1974年、キーボードのリック・ウェイクマンがYESを脱退する。
同年、リックの代わりとしてYESに加入したのがパトリック・モラーツだった。
そして生み出されたアルバムが「Relayer(リレイヤー)」である。
彼の多大なる貢献がなければ、このアルバムは生まれなかっただろう。
モラーツのキーボードは、リック・ウェイクマンとの音色の違いが明らかで、また
ミニ・ムーグに関して特に技巧的であり、「Relayer」はそれまでのどのアルバムよりも
攻撃的な印象がある。
しかしながら全体を通してメロディはとても美しく、前述の「Close to the Edge(危機)」と
双璧をなす、まぎれもない傑作なのである。
「Relayer」発表後なぜかYESは、メンバー全員がソロ・アルバムを発表するという
プロジェクトを開始する。
スティーヴ・ハウ(G)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Ds)に続き、
第4弾として発表されたのがこのモラーツの「ストーリー・オブ・アイ」である。
最後にジョン・アンダーソン(Vo)のソロ・アルバムも発表され全員出揃うのだが、
全5枚を聴き比べると、このモラーツのアルバムだけは他の4枚とレベルが全然違う。
これはもう誰の耳にも明らかで、完成度という点において頭2つくらい抜け出ている。
それくらい彼のこのアルバムに懸ける熱量は凄まじく、本気度が半端でない傑作である。
その後も彼のソロ・アルバムで時々「I(アイ)」が登場するのだが、その意味は未だに
オレには分からない。
実はこのリック・ウェイクマンの後釜探しの裏には面白いエピソードがある。
リックの後任としてまず候補に挙がったのは、なんとあのヴァンゲリスだったのだ。
ヴァンゲリスは、1972年のアフロディテス・チャイルド「666」以降はソロになったので、
YESに勧誘された1974年は、翌年発表の名作「天国と地獄」のアイデアを練っていたに違いない。
YESに加入できなかった理由は、英国のユニオン(音楽家組合)の問題と言われているが、
本当は音楽性の違いかな?とオレは思っている。
ヴァンゲリスがYESに加入していたら「Relayer」はもっとシンフォニックなアルバムに
なっただろうし、もしかしたら「Relayer」は生まれなかったかもしれないし、
モラーツはこんなに有名にはならなかったかもしれない。
そう考えると、一枚のアルバムはまさに邂逅の産物と言えよう。
いろいろ思いを巡らせながら…、今夜は何を聴くとするかな。

