私がこのイタリアのバンドを初めて聴いたのは高校3年生の6月のことだった。
翌年に受験を控え、そろそろ焦り始めたころだったと思うが、それでもNHK-FMの人気番組
「渋谷陽一のヤングジョッキー」だけは毎回かかさずエア・チェック(注1)をしていた。
その日1977年6月11日の放送はプログレッシヴ・ロック特集で、ゲストは私がとても
信頼していた音楽評論家の佐藤斗司夫氏だった。渋谷陽一氏は音楽評論家の草分け的存在だったが、
プログレに関しては今一つ詳しくなかったので、その道に強い佐藤斗司夫氏をゲストに呼んだのだろう、おそらく。
当時田舎の若者にとって、洋楽の情報源は主に「ミュージックライフ」、「音楽専科」などの音楽雑誌。
そこに載っているレコード評論を参考に読者はレコードを買う判断をすることになるので、音楽評論家の
レビューはとても大事だった。それを参考になけなしの小遣いでレコードを買い、何度も悲喜を繰り返すうちに
信頼できる評論家を見つけることになるのだが、私にとっては佐藤斗司夫氏が“いい”と言ったレコードにハズレは無かった。
この日の放送でかかった曲も、まさに私にドンピシャの曲ばかりだった。
中でも、チェレステの「ラ・グランデ・イゾーラ(大きな島)」という曲は感動ものだった。
イタリアのバンドはそれまでも幾つか聴いて知っていたが、そのどれとも違う優しいメロディと大胆なアレンジ。
そしてキング・クリムゾンばりのメロトロンと、フルートやムーグが織りなす哀感漂う響きは、今聴いても素晴らしい。
翌年上京し中古レコード店でこのオリジナル盤を見つけたが、とても高価で手が出なかった。
1981年にキングから日本盤が発売され、ようやく私のレコード棚にも収まった。アルバムを通して
アコースティックギターとフルートとメロトロンが支配し、派手さは無いのだがどの曲も実に美しい。
この1枚のみを残して解散したことと、シンプルすぎるジャケットのデザインが相まって、
聴いた後にとても儚い印象が残る。今の季節にぴったりのアルバムだ。
注1)「エア・チェック」とは、聴きたいラジオ番組を録音することです。今や死語ですね。